反逆の戦略者 DISRUPTORS 書評・感想 まとめ



本書は、WIRED UKの創刊編集長である David Rowan(デイビッド・ローワン)が、様々な国の様々なイノベーター達と会話し、彼らがどのようにイノベーションを起こすことができたのか、あるいはビジネスとして成功することができたのか、16パートにまたがってまとめられたものである。


内容についてだが、まず、“「真のイノベーション」に共通していた16の行動”という副題に、この本最大のミスリーディングがある。「イノベーションを定式化することなんてできない、イノベーションを科学するなんてふざけるな」というのが筆者の執筆のモチベーションになっていることは明らかだ。このことは原題の『Non-Bullshit Innovation』という表現からも分かるだろう。もっとも、最終章には「イノベーションに成功する企業13の共通点」が次のようにまとめられているが。

  1. 自ら判断して動く少人数チームを社内に組織し、顧客ニーズを発見し対応する権限を与えている
  2. 世界レベルの才能を採用し、動機づけ、つなぎとめる能力こそ最大の資産であると理解している
  3. 好奇心を保ち、外の世界を観察し、問いを持って学び、自己満足に陥らないよう自戒している
  4. 仮定に基づいて検証し、フィードバックを吸収し、あらゆるステップで繰り返すことを厭わない
  5. 会社のゴールより顧客のニーズを優先する
  6. 新市場の動向を理解し、今のビジネスモデルや製品の先にあるものを発見しようとしている
  7. 階層構造や官僚的思考からの脱却を目指し、意思決定を速め、リスクを取ることを恐れない
  8. 大胆な行動に出て失敗しても、意味のある学びがあれば、それを次に活かすことでよしとする
  9. 短期的な結果を求める圧力からチームを守る構造になっている
  10. 「イノベーション」を特定の個人やチームの責任と見なさない
  11. 分野の壁を乗り越える協働と、異なる文化を融合するハイブリッド思考ができる
  12. 社員が会社の目的に共感し、価値観を共有している
  13. 社内が起業家精神を発揮することを奨励し、それに報いる仕組みがある


あと、この本はフォントがちぐはぐで読みにくい。こっちでは明朝体、こっちではゴシック体とまるで統一感がなく、慣れるまではイライラした。どうしてこんなことするんだろう。あえてやっているんだろうか。それとも僕が知らないだけで、フォントをバラバラにするのが流行りなのだろうか。


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PART 1. 隠れたニーズを満たせ

ペルーの Innova Schools はグローバルデザインファーム IDEO が手掛けた学校だ。IDEOが手掛けただけあって、デザイン思考によって教育システムそのものが再構築されている。この学校を所有しているのはペルーのコングロマリットである Intercorp という企業だ。Intercorpは『このままでは、自社の製品やサービスを買ってくれる中産階級の顧客層が形成されないばかりか、会社の成長に必要な人材も確保できない。政府がやってくれないのなら、自分たちでペルーに必要な教育システムをつくろう』という考えから、学校チェーンの経営を始めたのだという。影響力のある企業が本気で顧客のためになることをビジネスとすれば、大きな事ができるようになる。Intercorpの場合、“教育”によって国と国民を大きく前進させることができたのだった。

デザイン思考よろしく、ワッツアップやドロップボックスも徹底したユーザー志向によってビジネスとしてのブレークスルーを果たした。明確なミッション(Intercorpの場合はペルーを南米最高の国にすること、ワッツアップの場合はとにかくシンプルなメッセージアプリを開発すること)を掲げ、顧客のニーズを察知し、それを満たすことで、イノベーションを実践できるのだ。


PART 2. チームを奮い立たせろ

不可能を可能にするという建築施工会社の Arup(アラップ)は、ロンドンの超高級ホテル「クラリッジズ・ホテル」の地下5階分の拡張工事を “ホテルは工事中も全館で営業を続けること”・“建設機材やコンクリートの半出入に使うのはホテルの裏口に限ること” という条件で引き受けている。不可能で無謀と思われる案件にこそ、エンジニアリング魂が燃えるのだという。

アラップは、決して上意下達の組織ではなく、優秀な人材が命令されずとも協力して働き、挑戦しがいのあるプロジェクトに夢中になって取り組む「チーム」である。トップ自身が「勤続35年の社員より新入社員のほうが優れた知識とスキルを持っている時代」「自分のネットワークを通じて問題を解決し、Youtubeで自己教育するような彼らが、ベテラン社員の専門知識に価値を置く階層構造の内向きの会社に入りたいと思わないのは当然だ」と語り、その組織像を実現しているのだ。官僚主義を一掃し、クリエイティブな職場文化のもと、優秀な人材に権限移譲してリスクを冒してもらうべきなのだ。失敗してもそれを教訓とし次に進められることを保証されていること、あるいはリスクを冒して挑戦したことを評価することこそが、チームへの最高の動機づけとなる。


PART 3. 海賊を雇え

2016年、アメリカ国防総省で「ハック・ザ・ペンタゴン」というバグ通報報酬プロジェクトが実施された。国防総省の一般向けウェブサイトに対して250人以上が脆弱性レポートを提出し、総額7万5千ドルの報酬が支払われたという。この取り組みによって少なくとも100万ドルの損失が防がれたと見積もられ、ハック・ジ・アーミー、ハック・ジ・エアフォース等へと続いていった。

日本でもCOCOAの欠陥がマスコミを騒がす等、官僚文化のもと進められるITプロジェクトは失敗続きだという印象があるが、それはアメリカでも同じのようだ。オバマケアへの登録を管理するウェブサイトが2013年10月に開設されたが、2時間も立たないうちにクラッシュし、初日に登録できたのはわずか6人だったという!当初予算は9370万ドルだったが、その混乱を収集するのに最終的に17億ドルもかかったんだそうだ。レガシーな組織、レガシーなシステムをぶっ壊して再構築するためには、とにかくその文化を捨てることだ。イノベーションを語る時間余裕があるような組織にはイノベーションなど起こせない。とにかくのんびりとした歩みを捨て、小さな成功を繰り返し、アジャイルに前進していくことが重要だ。


PART 4. 製品をサービスに変えよ

フィンランドの Pohjola Hospital(ポポヨラ病院)は「患者をどれだけ早く退院させたか」と「患者の満足度」がKPIとなっている、フィンランド最大の銀行グループ OP が運営する病院である。銀行のビジネスモデルが永遠でないことに気がついたOPは、病院を効率的に運営しそこに医療保険事業を結びつけようとすることで、自分たちの組織と事業を再編したのだった。これは、誰でも真似のできる狭義のプロダクト・イノベーションではなく、自分たちのミッションやバリューに基づいた包括的なアプローチだ。金融業は生活のあらゆる領域に関係できており、必ずしも銀行という枠にとらわれる必要はない。顧客が解決を望んでいる基本的な問題が、医療やモビリティ、決裁、住宅であれば、それらについてのサービスを顧客に提供すれば良いのだ。


PART 5. ムーンショットを狙え

Google X(現在は社名をXに変更) は“ムーンショット・ファクトリー”である。ムーンショットというチーム名は、ケネディ大統領が月面着陸を目指したプロジェクトに由来している。Xでは海水をカーボンニュートラルな液体燃料に変えるための研究や宇宙エレベーター、常温核融合などが研究されており、また、Waymo(ウェイモ、自律走行自動車会社)や Loon(ルーン、インターネット接続を提供する成層圏レベルの気球ネットワーク)等の分社化に成功している。

一方これらのプロジェクトは無尽に行われるものではない。「キル・メトリクス」と呼ばれる「それを満たさなければ他の点がどうであってもプロジェクトを中止しなくてはならない決定的基準」が設けられており、キル・メトリクスが達成されないプロジェクトは打ち切られることとなっている。プロジェクトが打ち切られたからといって、それは決して失敗ではなく「学習の成果」だとされ、失敗から得られた教訓を分かち合うことが望まれている。また、プロジェクトが打ち切られたり提案したアイデアが却下されたりした社員に対しては昇進や賞与等の措置が取られるという。これらにより、社員が積極的に提案できるようになり、また実現性の低いプロジェクトを自主的に終わらせることができるようになり、失敗のリスクがある大胆な提案ができるようになるのだ。


PART 6. 未来をインキュベートせよ

出会い系アプリ TinderHatch Labs という会社のハッカソンから生まれたアプリだが、Hatch Labs 自体は大手メディア企業 IAC によって過半数所有されていた。IACは何年にもわたりオンラインデート業界を支配しており、Match.com、OkCupid、PlentyOfFish、Meeticなどの出会い系サイトを所有している企業だ。IACは、なぜ自社が優勢なデートアプリ市場において、競合他社を支援して自社の収益をリスクにさらすようなことをしたのだろうか。それは、IACではインキュベーターが会社から自立しており、インキュベーターの運営にほとんど口を挟まなかったからだ。既存の収益源を葬り去ってしまう可能性のあるビジネスに対して、親会社がコントロール権限をもっていると、どうしても自制が働いてしまうだろう。「Match.comを捨てる」という選択肢が親会社には無いのだ。Hatch LabsがIACから自立した子会社だったからこそ、Tinderは誕生できたのだ。


PART 7. 夢でプロトタイプをつくれ

UAE アラブ首長国連邦は、いま世界でもっともAI活用を進めようとしている政府機関の1つかもしれない。2014年に Mohammed Bin Rashid Centre for Government Innovation(ムハンマド・ビン・ラーシド政府イノベーションセンター)が設立されたのを皮切りに、政府主導の複数のイノベーション・ラボが開設されたりイノベーション担当CEOや幸福担当大臣のポストが新設されたりし、「真空チューブを利用した輸送システムによる通勤」「空飛ぶ自動運転タクシー」「炭素排出ゼロの実験都市」等について議論が進んでいるのだという。石油により立国したUAEは、持てる限りの経済力を注ぎ込み、国を上げてスタートアップマインドを育成しようとしている。明確な未来のビジョンを提示することでそれを達成する説得力のある物語が生まれ、長期的だが具体的な(国家としての)ビジネスプランに落とし込むことができるのだ。


PART 8. プラットフォームを構築せよ

UAEがAI国家を目指そうとしている国だとすると、エストニアは既にデジタル国家になり得た国だと言える。エストニアはEレジデンシー政策、つまりデジタル空間でエストニア住民を増やす政策を推進している。世界中の誰もがオンライン申請でエストニアのEレジデントになることができる。Eレジデントが取得できればエストニアで会社を設立し、エストニアの外に住んだままEUのルールでビジネスを行うことができる。

Eレジデントの取得には100ユーロの申請料が必要だ。これにより、エストニア政府は2025年までに3億4000万ユーロの収入を得ることができると見積もられている。経済効果は総額18億ユーロだ。Eレジデントが1000万人になり、1000万人からサブスクリプションフィーを請求すると、エストニアの現地に住む国民からの所得税は完全に廃止できるのだという。

エストニアのデジタル政策は、国民やEレジデントにメリットをもたらすばかりでなく、国家公務そのもののデジタル化ももちろん推進した。政府は全国民に安全なデジタルIDカードを一律支給しており、それらはXロードと呼ばれる分散型データ連携を介して官民5200以上の組織に接続されている。エストニア政府の発表によると、Xロードによって市民と政府を合わせて年間8億時間の節約を実現しているのだという。Xロードは Once Only の原則で運用され、何らかのサービスのために情報を一度入力したら、それ以降二度とどこにも入力する必要はない。ちなみに、このワンスオンリーは日本国政府が掲げる「デジタル・ガバメント推進方針」にも明記されている。デジタルでも行えることはデジタルをデフォルトにする「デジタル・ファースト」の文化を根付かせることが、日本がエストニアに追いつき追い越すために必要な第一歩なのではないか。


PART 9. ブラインドスポットを発見せよ

CADで有名な Autodesk(オートデスク)がいま取り組んでいる事業領域の一つに Generative Learning(生成的学習)がある。これは「ロボットに搭載されたAIが個々の労働者のスキルをモニターし、その人が持っているスキルに合わせて個別化された訓練を施すことで、ロボットと協力して効果的に働けるようにする」というものだ。これにより顧客はオートデスク製品についてのトレーニングを行える。また、オートデスク製品は高度すぎると二の足を踏んでいる顧客の不安も解消できることになり、オートデスク製品が使い続けられることに繋がっていく。

足元では、オートデスク社はソフトウェア企業からAIを駆使したサブスクリプション企業へ移行を果たした企業として有名だ。CEOのアンドリュー・アナグストは「何かを作りたければ、まず何かを壊さなければならない」という哲学を述べている。オートデスク社は“顧客が求めると分かっていながら、まだ顧客が求めていないこと”をビジネスモデルに組み込もうとしており、サブスクリプションへの移行はそのためには必須の第一歩であったのかもしれない。


PART 10. データを収益に変えよ

郵楽 とは中国郵政が設立したEコマースネットワークだ。加盟店は、POSスキャナー・レシートプリンター・デジタル秤などのデジタル機器を置くことで、例えばモバイルでクーポンを配ったり、卵が届いたらお客さんに知らせたりといった恩恵に授かることができる。一方、郵楽の最大の強みはその郵便配達網にある。100万人の郵便労働者が繋ぐことで中国全土の農村にある何十万という店から成る小売配送ネットワークを構築しているのだ。郵楽は毎日数百万件の購入データを個々の顧客と紐付けて記録している。ふいに暑くなった日はビール需要が急増することが考えられるが、郵楽はビールの需要増を察知し、ビールを積んだトラックを最適な場所へ向かわせることができる。アリババが商品を売って儲ける会社だとすると、郵楽はデータを最大限に活用して儲ける会社なのだ。


PART 11. 偶然の出会いを生むコミュニティを作れ

Francis Crick Institute(フランシス・クリック研究所)は生化学者・神経科学者・免疫学者・計算生物学者などが働くヨーロッパ最大の生物医学研究センターだ。クリック研究所では、各分野間の壁が、比喩的にも物理的にも取り払われている。グループ間に物理的な壁は無い。またクリック研究所の1階には500人入れるカフェテリアがあり、研究者たちが一緒に座れるように長いテーブルが置かれている。会議室もほとんど無いんだそうだ。

科学的知見からもこの研究所のデザインは支持されている。「座席の距離と会話の頻度の間には指数関数的な比例関係がある」という研究結果として“アレン曲線”はよく知られている。また、空間的に近い場所にいる共著者の論文は、そうでない共著者の論文を発表本数でも被引用回数でも上回っていたそうだ。

スティーブ・ジョブズもその事をよく理解していたうちの一人だ。ピクサーのスタジオを新しく移転させる計画が立った際、アニメーター用・テクニカルチーム用・マネジメント用と3つの建物に分かれて計画されたそうだが、ジョブズはそれを却下し、大きな建物1つにするよう主張したそうだ。一見するとスペースの無駄遣いではあったが、結果的にジョブズはピクサーのコラボレーションと創造性を引き出すことに成功したのだった。


PART 12. 自社の価値を組み替えよ

カンタス航空が始めたカンタスのポイントプログラム(フリークエント・フライヤー・プログラム)はオーストラリアの人工の半分を占める1240万人もの会員がいる。会員たちは2017年には合計で1200億ポンド超を獲得し、それによって500万回のフライトが消費されたという。ポイントは旅行はもちろん、クリーニング、カフェラテ、ゴルフ、生命保険等によっても獲得したり利用したりできる。カンタスはデジタル企業が得られないようなリアルな顧客データを把握し、それを使って個人に合わせた提案を行うことができるのだ。加えて、データアナリティクス・保険数理等を行うテック企業をパートナーとすることで、ロイヤリティプログラムをデジタルプラットフォームに移行させ、リアルでもデジタルでも、顧客行動データを取得し、活用できるよう、事業を展開している。いまやカンタス・ロイヤリティによる利益はグループ全体の利益の30%近くに達しており、カンタスグループの稼ぎ頭となっている。


PART 13. エコシステムを構築せよ

中国の Xiaomi(シャオミ、小米)はApple製品に激似のプロダクトを売る会社だ。シャオミのショールームに行けば Notebook Air、MiPhone、MiPad、MiTVなどが売られている姿を見ることができる。明らかにAppleのパクリ製品群だが、それらの製品はIoTによってシャオミのプラットフォームに繋がっている。シャオミのプラットフォームには自社製品だけではなく、血圧計や浄水器等のサードパーティ製品も繋がっている。これらの製品を開発する企業に、シャオミは10万ドルから50万ドル規模の投資を続けている。

投資の決定を下すのはシャオミの財務チームではなく、20人のエンジニアのチームなのだという。エンジニアチームは投資するかどうかを1回の会議で決定する。普通の投資家よりも圧倒的に速いスピードで、アジャイルに意思決定できていると言えるだろう。また、テクノロジー系に強いVCや投資家であっても、一般に彼らはソフトウェアやインターネットの領域しか知らない。エンジニアチームはハードウェアについても多くの知見を持っている。このことからもエンジニアチームが投資判断を下すことがシャオミにとってメリットが大きいことを説明することができるだろう。


PART 14. テクノロジーに賭けろ

Hestan Vineyards(ヘスタン・ヴィンヤーズ)という企業の「ヘスタン・スマート・クッキングというサービス」を用いると、iPadに表示されるレシピ通りに料理を進めれば、Bluetoothに接続された鍋に温度や時間の指示が飛び、センサーが内蔵された鍋やIHヒータが連動して、自動的に調理を進めてくれるという。レシピは腕利きのミシュランシェフたちによるもので、彼らが食材をどう整え、どう切って、それらを何度で何秒加熱したか、その調理プロセスが緻密に記録され、出来上がったものだ。スマートクッキングでは、232℃で90秒表面を焼いたら、すぐに177℃に下げる、といった細かな温度調整を忠実に再現することができる。これをヘスタンは“Kitchen as a Service”と呼んでいる。


PART 15. ビジネスモデルを拡張せよ

南アフリカの新聞社 Naspers(ナスパーズ、元々はナショナルプレス De Nationale Pers Beperkt)はビジネス史上最大のピボットに成功した企業だ。2001年に3200万ドルで投資したテンセントは、2018年3月現在、その企業価値が1640億ドルにまで至っている。

ナスパーズは元々、南アフリカのアパルトヘイト政策に加担していた、保守的でレガシーな会社だったと言える。ただ、1984年に業務執行取締役に任命されたヴォスルーは「アパルトヘイトと少数派白人による支配は必ず終わるから、そのときに備えなくてはならない」と考えていた。そんなとき、ニューヨークのコロンビア大学の学生であったベッカーは、ヴォスルー宛に次のようなFAXを送った。「HBOのようなサブスクリプションモデルを、南アフリカの衛星放送でやればうまくいくのではないか」と。ヴォスルーは役員会を招集しベッカーにプレゼンをさせ、その後すぐにベッカーを事業責任者に指名したのだった。

ビジネスモデルの拡張には、ときにベッカーのように完全なアウトサイダーから新鮮な文化を取り入れる必要がある。また、ヴォスルーが描いていたように、未来の脅威に目を光らせ、自分たちの責任でその変化に備えることで、変革を推進していくことができる


PART 16. 危機をチャンスに変えろ

シーツやタオル、ラグなどを提供するインドの大手サプライヤー Welspun India(ウェルスパン・インディア)は、2016年8月、大きな危機に見舞われた。ウェルスパン製のシーツが、実際には非エジプト綿であったのにも関わらずエジプト綿として納品していたことが判明したのだ。これにより一気に株価は下落、また数週間のうちに5件の集団訴訟が起こされた。そんななか、ウェルスパンはある戦術により絶体絶命のピンチを乗り越えることができたばかりか、サプライチェーン全体の透明性を実現できたのだった。

具体的には次のとおりだ。まず、被害を受けた小売パートナーにはいくらかかっても損害額を全額補償することを発表した。また製品を購入した顧客には全額返金することを申し出た。これにより、一時的な支出は嵩んだものの、結果としてウェルスパンに対するイメージと信頼は強化された。

また「消費者が自身で商品を原料までさかのぼって追跡できる仕組み」の構築を始めた。農場の綿俵にRFIDを付け、農場→綿繰り器→糸→生地→縫製へとすべての段階を追跡することができるようにした。こうした完全なトレーサビリティの追跡は消費者にもウケた。消費者は、生地の由来や品質に高い透明性を求めており、その情報を得るためには追加費用を払っても良いと考えているという事実が分かってきたからである。

存亡の危機に直面したウェルスパンは、迅速な意思決定と意欲的な発想、そして危機を逆手に取って将来の価値を構築するための技術と戦略により、かえって企業ブランドを強固にすることができたのだった。


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