反逆の戦略者 DISRUPTORS 感想4

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PART 9. ブラインドスポットを発見せよ

CADで有名なオートデスク社がいま取り組んでいる事業領域の一つに Generative Learning(生成的学習)がある。これは「ロボットに搭載されたAIが個々の労働者のスキルをモニターし、その人が持っているスキルに合わせて個別化された訓練を施すことで、ロボットと協力して効果的に働けるようにする」というものだ。これにより顧客はオートデスク製品についてのトレーニングを行える。また、オートデスク製品は高度すぎると二の足を踏んでいる顧客の不安も解消できることになり、オートデスク製品が使い続けられることに繋がっていく。

足元は、オートデスク社はソフトウェア企業からAIを駆使したサブスクリプション企業へ移行を果たした企業として有名だ。CEOのアンドリュー・アナグストは「何かを作りたければ、まず何かを壊さなければならない」という哲学を述べている。オートデスク社は“顧客が求めると分かっていながら、まだ顧客が求めていないこと”をビジネスモデルに組み込もうとしており、サブスクリプションへの移行はそのためには必須の第一歩であったのかもしれない。


PART 10. データを収益に変えよ

「郵楽」とは中国郵政が設立したEコマースネットワークだ。加盟店は、POSスキャナー・レシートプリンター・デジタル秤などのデジタル機器を置くことで、例えばモバイルでクーポンを配ったり、卵が届いたらお客さんに知らせたりといった恩恵に授かることができる。一方、郵楽の最大の強みはその郵便配達網にある。100万人の郵便労働者が繋ぐことで中国全土の農村にある何十万という店によって小売配送ネットワークを構築しているのだ。郵楽は毎日数百万件の購入データを個々の顧客と紐付けて記録している。ふいに暑くなった日はビール需要が急増することが考えられるが、郵楽はビールの需要増を察知し、ビールを積んだトラックを最適な場所へ向かわせることができる。アリババが商品を売って儲ける会社だとすると、郵楽はデータを最大限に活用して儲ける会社なのだ。


PART 11. 偶然の出会いを生むコミュニティを作れ

フランシス・クリック研究所は生化学者・神経科学者・免疫学者・計算生物学者などが働くヨーローッパ最大の生物医学研究センターだ。クリック研究所には、各分野間の壁が、比喩的にも物理的にも取り払われている。グループ間に物理的な壁は無い。またクリック研究所の1階には500人入れるカフェテリアがあり、研究者たちが一緒に座れるように長いテーブルが置かれている。会議室もほとんど無いんだそうだ。

科学的知見からもこの研究所のデザインは支持されている。「座席の距離と会話の頻度の間には指数関数的な比例関係がある」という研究結果として“アレン曲線”はよく知られている。また、空間的に近い場所にいる共著者の論文は、そうでない共著者の論文を発表本数でも被引用回数でも上回っていたそうだ。

スティーブ・ジョブズもその事をよく理解していたうちの一人だ。ピクサーのスタジオを新しく移転させる計画が立った際、アニメーター用・テクニカルチーム用・マネジメント用と3つの建物に分かれて計画されたそうだが、ジョブズはそれを却下し、大きな建物1つにするよう主張したそうだ。一見するとスペースの無駄遣いではあったが、結果的にジョブズはピクサーのコラボレーションと創造性を引き出すことに成功したのだった。


PART 12. 自社の価値を組み替えよ

カンタス航空が始めたカンタスのポイントプログラム(フリークエント・フライヤー・プログラム)はオーストラリアの人工の半分を占める1240万人もの会員がいる。会員たちは2017年には合計で1200億ポンド超を獲得し、それによって500万回のフライトが消費されたという。ポイントは旅行はもちろん、クリーニング、カフェラテ、ゴルフ、生命保険等によっても獲得したり利用したりできる。カンタスはデジタル企業が得られないようなリアルな顧客データを把握し、それを使って個人に合わせた提案を行うことができるのだ。加えて、データアナリティクス・保険数理等を行うテック企業をパートナーとすることで、ロイヤリティプログラムをデジタルプラットフォームに移行させ、リアルでもデジタルでも、顧客行動データを取得し、活用できるよう、事業を展開している。いまやカンタス・ロイヤリティによる利益はグループ全体の利益の30%近くに達しており、カンタスグループの稼ぎ頭となっている。


PART 13. エコシステムを構築せよ

中国のシャオミ(Xiaomi、小米)はAppleに激似のプロダクトを売る会社だ。シャオミのショールームに行けばNotebook Air、MiPhone、MiPad、MiTVなどが売られている姿を見ることができる。明らかにAppleのパクリ製品群だが、それらの製品はIoTによってシャオミのプラットフォームに繋がっている。シャオミのプラットフォームには自社製品だけではなく、血圧計や浄水器等のサードパーティ製品も繋がっている。これらの製品を開発する企業に、シャオミは10万ドルから50万ドル規模の投資を続けている。

投資の決定を下すのはシャオミの財務チームではなく、20人のエンジニアのチームなのだという。エンジニアチームは投資するかどうかを1回の会議で決定する。普通の投資家よりも圧倒的に速いスピードで、アジャイルに(?)意思決定できていると言えるだろう。また、テクノロジー系に強いVCや投資家は、一般にソフトウェアやインターネットの領域しか知らない。エンジニアチームはハードウェアについても多くの知見を持っている。このことからもエンジニアチームが投資判断を下すことがシャオミにとってメリットが大きいことを説明することができるだろう。


PART 14. テクノロジーに賭けろ

ヘスタン・ヴィンヤーズ(Hestan Vineyards)という企業のヘスタン・スマート・クッキングというサービスを用いると、iPadに表示されるレシピ通りに料理を進めれば、Bluetoothに接続された鍋に温度や時間の指示が飛び、センサーが内蔵された鍋やIHヒータな連動して、自動的に調理を進めてくれるという。レシピは腕利きのミシュランシェフたちによるもので、彼らが食材をどう整え、どう切って、それらを何度で何秒加熱したか、その調理プロセスが緻密に記録され、出来上がったものだ。スマートクッキングでは、232℃で90秒表面を焼いたら、すぐに177℃に下げる、といった細かな温度調整を忠実に再現することができる。これをヘスタンは“Kitchen as a Service”と呼んでいる。


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