映画『メッセージ』を観た

原題はArrival、テッド・チャンの小説「あなたの人生の物語」が映画化されたものだ。

テッド・チャンの『息吹』を読み、これがやや難解だがとても面白かったので、メッセージも観てみることにしたのだった。

『メッセージ』もかなり難解な映画だったが、結果全て観た後は納得感たっぷりの、非常に精密な映画だったんじゃないだろうか。


その人の思考はその人の言語によって構成されている。その人の思考の限界はその人の言語の限界だし、思考の癖は言語の癖だ。『メッセージ』はそれがテーマになっている。

地球にある日やってきた地球外生命体には時系列という概念がない。過去も未来も現在も、全て同一のものとして捉えることができる。そのため彼らは未来に何が起きるのかもそのために今何をするべきなのかも、それらを区別せずに理解しているのだ。

彼らは3000年後に自分たちに危機が訪れることを知っていて、その危機を人間が解決してくれることを知っている。そのために交換条件として人間に「武器=技術」を授けるのである。その武器=技術とは彼らの使っている言語のことである。時制をもたない彼らの言語(Universal Language)を習得して彼らの言語に則って思考することで、人間も過去・現在・未来をノンリニアに理解することができるのだ。


主人公の女性は、映画の最後のシーンで、『これからある男性と結婚し子供を持つに至るが離婚してかつ子供も若くして死んでしまう』という自分の将来を認識した上で、それでもその男性(近い将来結婚相手となるパートナー)と抱擁している。

これを「“未来”に起こる不幸を受け入れ、“現在”の幸せをより噛みしめることを選んだ」というふうに解釈している解説ブログがあったが、それは少し違うと思う。

主人公の女性が認識している“未来”は事実としての未来である。過去何が起こったのかは不変なものであるのと同じように、将来何が起こるのかも(彼女にとっては)揺るぎない事実なのだ。そのため、もう既に、彼女にはその男性と結婚しないという選択肢は無いし、子供を持たないようにするという選択肢もない。

未来を変えるために過去に戻る、みたいなSFに慣れていると、ちょっとここはすぐには解釈しきれない部分だ。ただ、この緻密なロジックに基づくストーリーこそが、テッド・チャン原作の小説の魅力なのだろう。また是非『あなたの人生の物語』を読んでみることにしたい。


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