シンガポール

会社の福利厚生の一環で利用していた通信教育「リベラルアーツ入門講座 世界を生きぬく教養の力」が完了した。3冊のテキストを読み、それぞれについて1つずつ、計3つのレポートを提出した。宗教・文化・世界史・科学等の概要をざっくりと理解するのには役に立ったと思う。改めて、自分は世界の宗教とか文化とか世界史とか、いわゆるリベラルアーツに対する教養が無いなと実感した。子供には色々な歴史の本とか伝記とかを読ませたい。マンガでわかる〜みたいなのをシリーズで買って、自分も一緒になって読むことにしようかしら。


テキストにあったシンガポールについての記述がとても興味深かった。

シンガポールは一党独裁体制が続いている。民主主義よりも経済発展や開発体制を優先する政策が取られていて、世界でも有数の都市国家に成長したのだった。リー・シェンロン首相はシンガポールの体制について次のように述べたそうだ。

「シンガポールは独裁と言われてもいい。恐怖の場所なら国民は皆逃げていくだろう。国民は高い教育を受けて英語を話し、世界のどこにでも行ける」と。

国家の体制や目指している姿を端的に表した良い表現だ。共感できるし腑には落ちるけども、国家の長が発言するには少し過激で、実際にはどんな文脈で、どの場所で、誰に向かって発した言葉なのだろうか。テキストには引用元が示されておらず、興味を持ったのでググってみたが、少し調べてみた程度では見つけることができなかった。

通信教育講座のテキストなので校閲されていないわけがないと思うし、テキストの内容に疑ってかかっているということでもないのだが、あまりに気になったので、レポートの提出とともに質問として「引用元を教えてください」と記したメモも同封しておいた。回答が返ってくると良いのだが。


僕にはシンガポール人の友人が1人だけいる。彼女は日本に留学しにきていて、日本でアルバイトもしており、そのアルバイト先が一緒だったのだ。

彼女ほど感受性豊かな人間はこれまでに会ったことがないしこれからも会うことはないだろう。

彼女はビーガンである。宗教的な理由などではなく、ethical reasonでビーガンになったと言っていた。ただ、せっかく日本に留学しにきたということで、日本の食文化にも触れたいと考えてくれていたのか、そもそも一緒にアルバイトしていたお店は和食料理屋だったし、刺し身や焼き鳥なんかも含め、賄いは一通り食べていたと思う。また、大将と一緒に市場にも向かい、魚の卸売りを見学しに行ったこともあったという。日本に来て3ヶ月ほどで彼女はビーガンに戻ったのだが、ビーガンに戻る前も後も「日本の食文化はよく分かった。素晴らしい。ただ私はビーガンだ」というスタンスで、決して自分の価値観を他人に押し付けることはなかった。

学会発表でチューリッヒに行き、お土産として彼女にチョコレートを買ってきてしまったことがあった。そのチョコレートには牛乳が入っていたのでビーガンである彼女は食べることができない。ごめんね、間違えて買ってきてしまったよ、別のものと交換するよ、と伝えたところ「私は食べられない。だけどギフトは別」と言ってニコニコと喜んでくれたのだった。


就活中、昼間に最終面接を受け、夜のアルバイトで彼女と同じシフトになったことがあった。最終面接ということもあり少し緊張してうまく話せなかったかもしれない、のような、ありきたりな感想を世間話として彼女に伝えたところ、にわかに僕の手を握ってギュッと力を込めきて、真っ直ぐな目で僕を見ながら「私があなたの手を握っているこの強さと同じくらい、私はあなたのことを信じているわ」と励ましてくれたのだった。今になって振り返ると、いやいや、やりすぎじゃない?、とは思うが、それにしても素晴らしい人間性だと思う。

日本語もほとんど喋れないしビーガンで賄いには気を遣うし、普通であればそんな留学生はバイト先では毛嫌いされそうだが、彼女はお客さんにも大将にも大将の娘さんにも、皆んなから好かれていた。これはまさに彼女の徳と人格が為せる業なのだろう。

彼女はまさにリベラルアーツを体現したような人だったと思う。そういう人に、私はなりたい。


そんな彼女を知っていたので、b8taにてビーガンでも食べられるクッキーが売られているのを見た友人が「ビーガンって何となく我が強いイメージあるよねー」などと話しかけてきたのを聞いて、少しイラッとしたことがあった。いやいや、彼女はそんなこと一切なかったし、ビーガン向けの商品が売られている店の中でそんなこと言っちゃうお前の神経のほうがどうかしてるよ、と。


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